使えない木なんてないよ。枝だって立派な素材だ!~その2~

開発ストーリー

今回のブログも和田がお届けいたします。

前回、木を材料として使うには「乾燥」という工程がとても重要であることを書きましたが、morinocoナイフの生産に入ると、新たな問題が見えてきました。

その問題は非常に大きく、石川刃物製作所の石川社長が「不具合率が多すぎてこのままじゃとても進められん!」とメンバー間で共有するメーリングリストに投げかけたのです。

枝特有の動きと7割という不具合率

不具合の内容というのは次の通り。

morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

ハンドル部分と刃物部分をつなぐために使う輪っか状の金具があるのですが、ハンドル部分の先端を丸く加工してはめ込んでいます。
これがはまらないという現象が起きていました。
なぜはまらないかというと、丸く加工したところに、刃を納めるための切込みを入れたところズレが生じるのです。
このずれによってぴったり収まるはずの輪っか状の金具がはまらなくなる、という具合です。
写真で見ると一目瞭然。ずれてますよね。

最初この問題については、こういう不具合がある、とは聞いていましたが、僕自身、事の重大さを見誤っていました。よくよく聞いてみると不具合率が7割ほど。数パーセントの不具合率かと思い込んでいたので、その数字を聞いてびっくり。

通常、木が動く原因として考えられるのは、乾燥です。今回はこの乾燥についてはある程度クリアできているはず。そうなれば、枝特有の原因があるはず。

そこで急きょ更なる研究を始めました。

ついに突き止めた!犯人はこいつだ!

どういった過程でこのずれが発生するのか。

実は、おおよその原因は検討がついていました。

それは普通の木材にはあまりなく、枝には大小あるものの必ず含まれている部位があるからです。

その名も「アテ

アテは、木材が成長するにあたり、重力に逆らいその体を維持するために特殊に発達する部分です。morinocoナイフではヒノキの枝を使っていますが、枝は横方向に伸びながらも重力に耐えていく必要があり、その枝の内部では地上側は垂れ下がらないように硬い組織になっていきます。これは人間でいうと、常に筋肉の力を入れ続けている状態です。

このアテは、枝として採取され乾燥された後も内部に力を蓄えています。この力を「内部応力」といい、その形状を保つためにその力がずっと効いている状態でいます。

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写真で見ると、断面の色づいている部分があてと言われる部分です。

それでは、今回のハンドルとして加工していく際に、このアテをどう扱えばいいのか。

どういう加工をすればどう動くのかをまず突き止めなければいけません。

パターンに分けて切込みを入れ変化を見る

不具合は切込みを入れた際に起きるということなので、アテに対してどのように切込みをいれるとズレが起こり、どうすれば防げるのかを確認していきます。

morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

3パターンに分けて実験してみました。
A.アテの反対側から切込みを入れる
B.アテを2等分するかたちで切込みを入れる
C.アテに対して斜めに切込みを入れる

当初の予想としては、内部応力を均等に分散させるため「B」が良い結果が得られるのではないかと思っていました。

ハンドルの模擬試験体をA,B,Cのパターンで加工し、極度のストレス状態にするため電子レンジにかけます。

morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

電子レンジにかけることで、木材の変化を端的に発生させることができます。

さて、結果は。

まず、A
morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

あての反対側に切込みを入れましたが、結果溝がぎゅっと縮まりました。これは刃を挟みつける方向に動いてしまっています。

B
morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

アテをきれいに2等分するように切れ込みを入れましたが、ズレもなく、挟み込むような動きもありません

そして、C
morinocoナイフ 開発 子ども用 ナイフ アウトドア ヒノキ 枝 アテ

出ました!特に写真の一番左のものは大きくずれています。やはりアテの部分を斜めに切込みを入れることで内部応力がアンバランスに解き放たれてずれを起こしてしまっているようです。

<結果>

当初の予想どおり、アテを2等分するように切込みを入れるとズレが発生しないことがわかりました。

そして、Cのように斜めに切込みを入れるとズレが発生し、Aのようにアテの反対側から切込みを入れると溝部分を挟みこんでしまうことがわかりました。

この実験の結果から、枝からハンドルの材料に加工する過程では、アテの向きを気にしながら一本一本削り出していく必要があるということになりました。

未利用材を活用するということ

このように、これまで使われてこなかったものを活用しようとすると思いもよらないことが発生します。それでもその材料と向き合うことで新しい発見があります。枝は通常山に廃棄されるかバイオマス発電で燃やされるか。しかし、材料として活用でき、しかもその特徴を生かせるのであればそれに越したことはありません。

ナイフのハンドルには密度が高く硬くて粘りのある材料が使われてきました。実際、通常のヒノキを使ってハンドルに加工してみる実験をしてみましたが、密度が小さく、スカスカです。しかし、枝材は密度が高くナイフのハンドルにも向いていることもわかりました。

私たちの周りを囲む山々にある資源は、無駄に破棄されるものはありません。

morinocoナイフをつくることで、子どもたちにもそのようなことも伝えていけるように取り組んでいきたいと思います。

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  1. 2018年 12月 16日

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